【2026年採用実証】 初任給引き上げは応募率をどう変えたか? 自社データで測る「賃金弾力性」の速報
こんにちは、株式会社斎藤英次商店の藤永です。
昨今の採用市場の激化を受け、当社では中長期的な採用力強化のための人事制度改革を進めてきました。
職種区分の明確化と再定義、スキルマップと給与報酬との連動、福利厚生の改善、候補者体験(ジャーニー)を重視した面接設計など、
基盤整備を行ってきました。
その大きな節目として、2026年2月に実施したベアアップ「初任給30万円への引き上げ」について、
実データに基づいた検証結果を公開します。
1. リクルートワークス研究所が示す「賃金弾力性」とは
まず、分析の物差しとして用いたのが「賃金弾力性」という指標です。
これは、「募集賃金を1%引き上げた際、応募者数が何%増加するか」を示す数値です。
リクルートワークス研究所が公開しているレポート『賃金は採用に効果あり――応募者数と入社者数の賃金弾力性』によれば、
小売業や飲食サービス業のデータを用いた分析において、賃金を1%上げると応募者数は平均で4.30%増加するという結果が出ています。
ただし、同レポートでは「採用難易度の高まりに伴い、直近の賃金弾力性は3〜4程度まで低下傾向にある」とも指摘されています。
ここで私たちが疑問に持ったのは、「飲食・小売業のパート・アルバイトを中心としたこの弾力性データは、
当社のような物流・リサイクル業界の正社員採用にも当てはまるのか?」という点でした。
2. 分析手法:なぜ「実数」ではなく「CVR(応募率)」なのか
今回の分析において、単純な「応募者数(実数)」の比較は避けています。
その理由は、Indeedなどの運用型広告においては、広告費の投入量やアルゴリズムによって表示回数が大きく変動するためです。
特に今回は、「過去1年間の長期データ」と「直近2か月(2月・3月)の速報データ」という期間の異なるものを比較しています。
そのため、広告費や表示回数の影響(ノイズ)を排除し、純粋に給与条件がどれだけ求職者に刺さったかを測るため、
「クリック数に対する応募完了数(CVR/応募率)」を比較指標として採用しました。
3. 分析結果:全社平均の賃金弾力性は「3.23」
全社的な集計結果は以下の通りです。
| 項目 | 給与引き上げ前(25.6万円) | 給与引き上げ後(30万円) | 変化 |
|---|---|---|---|
| 全体応募率(AR) | 1.20% | 2.00% | 約1.66倍 |
| 賃金弾力性 | – | 3.23 | – |
この結果から、当社の業界・職種においても、リクルートワークス研究所が示す市場トレンド(3〜4)と極めて近い反応が得られたことがわかります。
4. 同条件での比較:土気営業所における「3月対比」検証
採用において「勤務地(エリア)」は極めて強力な変数です。
そこで、同一拠点(土気営業所)での前年同月(3月)対比の数値も抽出しました。
| 指標 | 2025年3月(25.6万円) | 2026年3月(30.0万円) | 変化 |
|---|---|---|---|
| クリック数 | 129回 | 404回 | – |
| 応募数 | 1件 | 11件 | – |
| 応募率(AR) | 0.78% | 2.72% | 約3.5倍 |
拠点単位・同月での比較検証において、応募率は約3.5倍に激増していました。
さらに、土気営業所のデータのみで算出した「局地的な賃金弾力性」は【 7.89 】という驚異的な数値でした。
これは、ローカルエリアにおいて「30万円」という心理的ハードルを超えた提示が、市場平均をはるかに凌駕する爆発力を持つことを示唆しています。
5. 現場実務で見えた「応募完了率」の改善
今回の検証で最も実務的な示唆が得られたのは、求人をクリックした後の「歩留まり」の変化です。
| 指標 | 給与引き上げ前 | 給与引き上げ後 | 変化 |
|---|---|---|---|
| 応募開始率(ASR) | 2.84% | 3.32% | 1.16倍 |
| 応募完了率 | 42.13% | 60.23% | 1.43倍 |
一般的に、スマートフォンでの履歴書入力は非常に手間がかかるため、多くの求職者が途中で離脱します。
しかし今回の結果からは、「30万円という条件が、多少の入力の手間をかけてでも応募を完了させようと思わせる、十分な動機付けになった」ことが推測されます。
6. 時期的な「先行者利益」の可能性
今回のデータは非常にポジティブなものでしたが、冷静に差し引いて考えるべき要因が一つあります。
それは「実施時期」です。
通常、多くの企業は4月の年度替わりに合わせて人事制度の改定やベースアップを実施します。
しかし当社は、他社に先駆けて「2月」に改定を行いました。
そのため、競合他社の給与水準がまだ上がりきっていない2月・3月のタイミングで「30万円」という条件を提示できたことが、
求職者の皆様の目を引き、これほど高い弾力性(特に土気営業所の爆発的な反応)を生み出した「先行者利益」である可能性も否めません。
4月以降、市場全体の水準が上がってきた際にこの数字がどう落ち着くかは、継続的な定点観測が必要です。
まとめ:初任給引き上げは「コスト」ではなく「採用力への投資」
冒頭の「飲食・小売業のパート・アルバイトを中心としたデータが、物流・リサイクル業界の正社員採用にも当てはまるのか?」という疑問。
結論として、
「弾力性の数値(トレンド)としては見事に当てはまったが、その『効き方』には正社員ならではの明確な違いがあった」と言えます。
アルバイト採用では時給アップが「気軽なクリック(応募開始)」に繋がりやすいのに対し、
当社の正社員採用では「面倒な履歴書作成を最後までやり抜く(応募完了率の劇的改善)」という、
候補者の本気度と歩留まりを引き上げる強力なフックとして作用しました。
今回の2か月間の速報値は、あくまで一過性の結果かもしれません。
しかし、これまで地道に進めてきた「職種の定義」、「スキルマップと給与の連動」や
「キャリアパス」などの制度基盤があったからこそ、
この「給与引き上げ」という施策が、単なるクリック稼ぎではなく「確実な応募」に繋がったのだと考えています。
ベースアップという重い経営判断を、単なる「コスト増」ではなく「採用力への投資」として社内で共有できたことは、
データ活用の大きな成果です。
【情報交換のお願い】
今後も、異業種の人事・採用担当者の皆様ともぜひ情報交換をさせていただければと思っております。
同様の採用課題をお持ちの方、あるいは人事データの活用に興味のある方がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にご連絡ください。